【完】ヴァンパイア、かなし
だから、その声に対して、返さずにはいられなかったのかもしれない。


「信じますよ。こんなこと言ったら電波だとか中二病だとか思われるかもしれませんが、化け物は、確かにいます。例えば、ほら」


僕は、下腹部に乗せていたボルドーブルーの布のハードカバーの本を、赤嶺先輩の前に差し出す。


「vamp……ヴァン、パイア?吸血鬼の、本」


「ええ。ヴァンパイア、です。この本は物語にしか過ぎませんが、実は、この現代にヴァンパイアが生きているとしたら、赤嶺先輩は信じますか?」


信じるも何も、本当は赤嶺先輩の目の前にいるこの僕がその化け物なのだが。何故、僕は赤嶺先輩にこのようなことを言っているのだろう。


つい赤嶺先輩にそのようなことを聞いてしまった後悔に苛まれ、僕は「なんて、冗談です」と小さな声で彼女から目線を逸らそうとしたが、赤嶺先輩がそれを逃さないよう、僕にぐっと顔を寄せ、硝子細工のような黒い瞳で僕の目を見た。


「私の大事な友人を殺したのは、この目であの日見たのは、紛れもなく吸血鬼だった。だから、私も信じている。化け物が、物語じゃなくて私の生きるこの世界にいると……!」


それはあまりにも真っ直ぐで、たとえ赤嶺先輩や満島先輩の幼なじみを殺したのが僕じゃないとしても、僕がそいつと同類だなんて思ってもいない、そんな綺麗な目。


やはり、直視するには綺麗過ぎる。そして、僕はきっと、あまり長い時間この人の、この温もりの傍にいてはいけないのだと悟る。


そうしなければ、僕も、彼女達も傷付けてしまうことになるだろう。
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