【完】ヴァンパイア、かなし
僕は名前のせいでぎょっとされてしまうぶん、日常生活は慎ましやかに過ごしたい。


「分かった。やっておくよ」


この声すら、僕のその人生を表しているみたいに小さな声で、それがこの権力者をつけあがらせる。


「さっすが紫倉君!マジ神だわ、リスペクトー」


本当は裏で、身長が高いだけの名前負け野郎って言ってるの、僕は知っているんだよ?


けれど、そんなことは言わない。僕はただ口の端をギシギシと、醜く引き上げて頼み事を引き受けるだけだ。


それでいい。僕にとっての幸せは、人間として日常の中に溶け込むことだけだから。


こんな奴に何を言われようともさせられようとも、僕の心は汚れたりはしない。


……そう思ってた。彼女と出会い『ヴァンパイア一族の呪い』を知る、この先の出来事が起こるまでは。
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