【完】ヴァンパイア、かなし
スローモーションのように落下する赤嶺先輩の元へ、出せる全速力で音楽室の窓から外へ、外からグラウンドへと走る僕の頭には、赤嶺先輩の言葉が過ぎっていた。


『君はどこか、いつも自ら幸せから一歩引いているように見える』


その通りだ。赤嶺先輩の言う幸せは僕の幸せとは違うと思っていた。思いたかったから。


『私は君に、もっと日の当たる所を見せたいだけなんだ。だって、世界にはこんなに幸せが溢れてる』


赤嶺先輩と出会って数日、目まぐるしいくらいに浴びた光は温かかった。日陰が幸せでないことを痛感させられたよ。


『君がその手を誰かに手を差し伸べなければ、誰もその手を取ったりしないんだよ?』


……それは少し違う。だって何度拒絶したって、赤嶺先輩は僕の手を取ろうとしたじゃないか。


生きる場所が違うとかそうじゃないとか、人間とか化け物とか、もう、関係ない。


今はただ、しつこいくらい僕に何度も手を差し伸べた赤嶺先輩のその手をしっかり掴んでみせる。
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