【完】ヴァンパイア、かなし
それでも、たまには日陰に行きたくなる。人はそうそう変われる生き物ではないから。
「なんだエルザー、また一人か?」
「……貴女こそ、僕が一人になりたいのが分かっててぬけぬけと」
昼休みは、やはりいつもの中庭の木陰に本とサンドイッチを持って一人で過ごしていた僕と、それを予想して一人でやって来た和真先輩の二人きり。
「先輩達のおかげで、以前とはずいぶん景色が変わった気がします。でも、僕は一人の時間が嫌いなわけでは無いから」
それでもパーソナルスペースに平気で上がり込んで来る和真先輩を、嫌だとは思わないし邪険にするつもりもない。
「うん。それがエルザなんだよな。私は一人でいることが悪いことだとは思わないよ」
そんな事を言いながらも、僕を一人にするどころかまた窓を超えて僕の隣に座る彼女を、僕はちらりと横目で見た。
「でも、それでも君はちゃんと変わった。ほんの数日で、ちゃんと一歩進んだじゃないか。凄いな、君は」
丸い瞳が瞼でくにゃりと細まった和真先輩。その和真先輩の柔らかな表情に、またひりひりと心が痛む。