【完】ヴァンパイア、かなし
僕の髪の毛を撫でていた和真先輩のがちっと目が合う。


吸い込まれそうな色だ。黒いのに、不思議と透明感のあるその色に、今にも引き込まれてしまいそう。


どれくらい見つめ合ったか分からないが、和真先輩は次第に唇をあわあわと波打たせ、そっと手を引っ込めたかと思えば、頬を徐々に赤く染めて行く。


「それ、どんな感情の顔、ですか?」


「し……知らん!あの、でも、ほら私……!君が、そうやって笑う顔を、初めて見た、から」


和真先輩が、照れている。そういう表現正しいのかは分からないが、そうであるなら、多分、嬉しい。


何故、僕は「嬉しい」のだろう。分からないけど、でも……嬉しい。


「……はっ!進路相談行かなくちゃいけなかったのをすっかり忘れていた」


「何やってるんですか。というか、貴女まだ進路決まってないんですか?もう10月ですよ」


「就職するのは決めているんだがなかなかなぁ。……じゃあ、また」


進路相談があったのに、彼女はわざわざ約束していない、いるのかも定かでない僕に会いに来てくれた。


その事実と、言われた「またね」がこんなにも幸せな事だったなんて、僕は知らなかった。
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