幼馴染みはイジワル課長
そういえば行き先を聞いてなかったな…




「取引先と打ち合わせだ。うちのキッチン用品を取り扱ってくれてる通販会社」

「へえ…」


打ち合わせ…か。碧が言うとそのフレーズだけでかっこいいと思える…




「お前は何もしなくていい。俺の隣にいればいいから」

「わかりました」

「ま、そんなこといちいち言わなくても何も出来ないと思うけど」


う…課長っていつも一言多くない?

いいけどさ…











「ありがとうございました。ではこちらで協議して検討させてもらいます」


取引先の細川部長が、課長の提出した書類を見ながら言った。

打ち合わせは無事終了。課長の言う通り私はただ隣で話を聞いていただけで何も出来なかった。何もしなくていいって言われていなくても結果は同じだったと言える。




「よろしくお願い致します」


丁寧に頭を下げる課長につられて私も細川部長に頭を下げた後別れると、私達は取引先のオフィスのエレベーターを待つ。





「疲れたか?」

「え?あ…いえ…ちょっと緊張しただけです」


取引先なんて初めて来たし何もしてないのに手に汗かいちゃった…




「このくらいで緊張してたらこの世界はやっていけないぞ。お前もいずれは取引先にプレゼンとかする日が来るんだし」

「そうです…よね…」


考えただけで吐きそうだ。私…そういうの苦手だし…

課長みたいに取引先相手にあんなにうまく話せないよ…これから課長の仕事を隣で見てちゃんと勉強しなくちゃ!

さっき課長に言われた「盗め」の意味が、今になってよくわかった気がする。






「真田さーん!」


なかなか来ないエレベーターを待っていると、後ろから課長を呼ぶかん高い女性の声が聞こえてきた。

私と課長が同時に振り返ると、私よりも少し年上くらいの可愛らしい女性が向こうから走ってこっち近づいてきた。





「はぁ…間に合って良かった~!ちらっと真田さんが見えたから仕事中だけど来ちゃった♪」


ニコッと笑うその女性はとても可愛くて、それに自分にすごくお金をかけている感じだった。

グレーの短い丈のスーツのスカートに、ウエストをリボン仕様のベルトでしめていて可愛くもありセクシーさも漂わせている。

背は私とほとんど変わらないくらいで、胸の辺りまであるきれい髪の色は明るめでゆるいウェーブがかかっている。指先はシンプルなネイルをしていてメイクもバッチリだ。






「金城(かねしろ)さん。いつもお世話になってます」


課長は営業スマイルを見せて、その女性に軽く頭を下げていた。




「もぉ~いつになったらその営業的トークやめてくれるんですか?」


口をつぼめる金城さんに、課長は何も言わずにただ笑顔を見せた。


私は課長の隣でただ俯いていたけれど、金城さんを一瞬見ただけでわかる。彼女は碧に気があるんだ。

仕事中にも関わらず私の中は嫉妬で溢れかえっていた…
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