幼馴染みはイジワル課長
いい方向に進んでるはずなのに、なんか胸が痛いな…

歩未ちゃんの味方であることは大前提だけど、清香さんのことも無下には出来ないし…


碧がいつも口癖のように言うけど、やっぱり不倫なんてするもんじゃないね。






「でもね…私近々今の仕事辞めようと思ってるんだ」

「え!?」


歩未ちゃんから打ち明けられた思いもよらない言葉に、私はびっくりして思わず飲みんでいたビールが口から漏れた。





「や、辞めるってなんで!?」


おしぼりで口元を拭くと、歩未ちゃんは気まずそうに答えた。





「部長とずっと不倫関係で、これから無事に離婚できたとしても…私が同じ職場にいたら正直部長もやりにくいだろうなと思って…」


歩未ちゃんはため息混じりでそう言って、話を続けた。





「部長と付き合い始めた時は好きな人と毎日一緒にいれて嬉しかったけど…今はそうでもないの。私が職場にいるせいで、向こうからしたら迷惑なんだと思うし…」

「そうかな…」

「そうだよ。口には出さないけど、絶対にそう思ってると思う…私がいるせいでやりにくいだろうし…だからタイミング的にも今辞めるのが一番だと思うんだよね。その方がこれからうまくいく気がする」


歩未ちゃんはふっと微笑んでそう言ったあと、ビールをぐびぐびと飲み干した。

その口調だと…歩未ちゃんの決意は固いと見られる。軽い気持ちでも思いつきでもなく、ちゃんと考えて出した答えなんだね…






「桜花ちゃんと離れるのが一番寂しいけどね~彼氏とはちょくちょく会えるけど、これからはそうもいかないじゃん?」

「そうだねぇ、すっごい寂しいけど…できるだけ会おう!私…今までの友達って学生時代の子だけだったけど、歩未ちゃんは社会人になって初めて出来た友達だから…会社辞めちゃうのは本当に寂しいけど…」



あれ…

また涙が出てきちゃった…

今日は涙腺がゆるいみたい。



そういえば…社会人になってからいつの間にかいつも隣にいた友達は歩未ちゃんだったな。

仕事話も恋愛話も…いつも歩未ちゃんに聞いてもらってたし、私も聞いていた。

大人になってから友達なんか出来ないと思ってたけど…そんな事なかったな。





「私も…本当に寂しいよ。桜花ちゃんのこと…今では親友って思ってるし……気がつけば地元の友達よりも一緒にいる時が多いし」

「うんうん、だよねっ」


泣く私を見て、歩未ちゃんもポロポロと涙を流していた。






「でももう決めたから…寂しいけど桜花ちゃんには応援して欲しいな。会社辞めて色々資格取ろうと思ってるの…そしたらやりたい事が見つかると思ってさ。それまでまたバイトしてがんばるよ」

「そっか。頑張ってね!応援してる!!」


何かが動き始めた瞬間を感じた…

きっと歩未ちゃんの中で何かがいい意味で吹っ切れて、ちゃんと前を見て歩いて行けそうなんだね…


幸せに向かってるんだよ…



不倫してたって…結果的に幸せになれればいいんだ。

ゆっくりでも…そこに収まればいいんだよ。

多分色んなやり方で幸せになれる方法があるから、それを見つけ出せれば勝ちなんだ…







ブー………ブー…


すると、テーブルに置いていた歩未ちゃんのスマホが震えた。






「うそ!」


スマホの画面を見ると、歩未ちゃんは急に慌て始めた。




「どうしたの?」

「早く接待が終わったから、部長と課長が合流しようってLINEが来た!」

「え!」


部長と碧がここに!?





「どーしよ!メイク直さなきゃっ」

「やばいやばいっ」


さっきたくさん泣いたせいで、今はすっぴんに近い状態の私と歩未ちゃんは慌ててカバンからメイク道具を出す。


笑ったり泣いたり慌てたり…本当に忙しいな。

でもこれから碧に会えると思うと、自然に顔がにやけてくるよ~

今日は前から接待って聞いてたし、会えないと思ってたから余計に嬉しい!



ワクワクしながらメイクを直していると、ふと前に座る歩未ちゃんに目を止めた。

歩未ちゃんもこれから部長に会えるせいか、すごく嬉しそうでその横顔はとても可愛らしい…


最近はずっと暗い顔ばかり見てたから、そんな表情の歩未ちゃんをまた見られて良かった…







30分後。



「お疲れーぃ♪」


ほろ酔いの部長が居酒屋に入ってきて、私達を見つけるなりテンションが上がった状態でこっちに近づいてくる。





「酔ってるね~あれ?課長は?」

「トイレー」


歩未ちゃんの隣に座ると、部長は甘えるようにゴロンと横になる。
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