幼馴染みはイジワル課長
さすがの碧もかなり驚いている様子。

部長は一息置いたあと、一度唇を噛み締めてまた冷静な表情で言った。






「俺は部長の器なんかじゃない。何故なら…妻以外の女性を本気で愛しているからです」


部長はそう言うと、歩未ちゃんを真っ直ぐと見つめた。そんな部長を見て、歩未ちゃんもかなり驚いている。





もしかして…

みんなに2人の関係をカミングアウトする気なの…?





「最近部で噂になっているようですが…その噂は全て事実です。俺は不倫をしました。そして妻と先日別れ…今に至ります」


別れた?

嘘…じゃあ離婚は無事に成立したの?





「俺のせいで妻や彼女を傷つけてしまったし、周りにもものすごい迷惑をかけました。全て俺の責任です…だから退社することを決めました」


オフィス内のざわつきは止まらない。みんなが部長に注文する中、歩未ちゃんだけは下を俯いて肩を震わせていた。

私は後ろから背中をさすり前を覗き込むと、歩未ちゃんは泣いていた。



こんな歩未ちゃんを見れば、部長の不倫相手は彼女だって事みんなが気づいてるだろう…

もう全てがバレてしまった。


でも…

これでいいと部長は思ったんだよね。






「皆さんには本当にお世話になりました。これからも頑張って下さい。退社まではあと数日ありますが、どうか温かい目で見守ってくれたら嬉しいです。いや…俺のことは何言ってもいいですが…彼女の事はそっとしておいてあげて下さい。お願いします」


社員達に深々と頭を下げる部長。

その行為を見て、ざわざわしていたオフィスは一瞬でしーんと静まり返った。






「…まだ詳しくは決まってないのですが、次の部長は真田になってもらうみたいなので皆頑張ってね」




は?







ざわざわ

ざわざわ





部長のその一言で、またオフィスは騒がしくなる。




ちょっと待って!

ちょっと待って!!



今なんて言った!!?


次期部長は碧!!?

嘘でしょ?






「あ、あの…部長…」


まだ何も聞かされていない様子の碧が、困ったように部長に近づく。部長は楽しそうにニコニコしていた。





「びっくりした?」


ニシシと笑う部長は、どこか明るくてスッキリした顔をしていた。





「当たり前ですよ」

「ごめんごめん。でもこれでいいんだよ…」


力なく微笑む部長を見て、碧は少しだけ間を置いたあとこくりと頷いた。





「次の部長候補はお前しかいないと…上の方からも推薦されてるぞ」

「俺に出来るでしょうか…この歳で部長なんてそんな…」

「珍しく自信がなさそうだな?お前なら任せろくらい言ってくると思ってたけど」


キョトンとする部長に、碧はふっと笑って口元を緩めた。





「これくらいの事言わないと…部長が辞めて自分が昇進する事が嬉しいみたいじゃないですか」



どっ





碧のその言葉でオフィス内が笑いに包まれ、さっきまでの重い雰囲気は一気に消えていた。



さすがだな。

やっぱり碧はすごい…







「あっははは♪参った参った…お前には本当に敵わないよ!お前なら立派な部長になれるよ。ま、社員をあんまりいじめない程度にこれから頑張ってくれよ」

「…はい。今まで本当にありがとうございました。お世話になりました」
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