幼馴染みはイジワル課長
「この資料を持ってきてくれ」

「はい」


碧から資料の名前が箇条書きに書かれたメモ用紙を渡された私は、そのまま資料室へ向かった。




当たり前だけど…碧は会社では今まで通り普通にしてる。

さっきは婚約者の事を他の社員達に報告してた時は、結構ドキッとしたけど…だからって何かあるわけじゃない。

碧はどちらかというと自分の事をあまり話さないタイプだし、それに会社では部下の私には相変わらず厳しいし…


「付き合ってるからとか婚約してるからとか関係なしに、会社では今までと変わらずに接するから」と約束してるけど…

私としては、もう少し優しくしてくれてもいいじゃんとは思う。


碧ってば、今だってみんなの前で平気で私のこと怒るし…

ミスしたら鬼みたいな顔するし…



まあ、仕事だから仕方ないっていうのはわかるんだけど…

ちょっとくらいひいきしてくれてもいいじゃんとか思ってしまう…






ガチャ…


資料室に入り、メモを見ながら資料を探し始める私…



入社したての時は、資料を探すのも一苦労だった。

こんなに果てしなくある資料の山の中から、指定された物を探し当てる…慣れない私にとってはまるで宝探し。


今になっては手馴れたもので、前ほど時間はかからなくなってきた…

碧にも「遅い!」と怒られることもなくなったし、こんな些細なことだけどこれって成長したっていうのかな。






ガチャ…


資料を探していると、ドアが開く音がして後ろを振り返る…すると…




「あ… 」


資料室に入って来たのは碧で、ドアを後ろ手で閉めると碧はそっと鍵をかけた。






「ど、どうしたの?」


社内で2人きりなるなんて、最近では珍しい…

付き合ってからはバレないように、お互いを避けていたのに…





「感想を聞きたくて…」

「何の感想?」

「婚約報告したこと」


碧のその言葉を聞いて、私はさっきまで考えていた事がまた頭の中に引き戻された。






「べ、別にぃ…」

「てっきりお前が怒ってるんじゃないかと思って…俺が勝手に婚約報告したから」


私のご機嫌を伺うような口ぶりだが、碧の表情はどこか意地悪だ。






「怒ってなんかないよ。びっくりはしたけど…」


怒るどころか…報告してくれた事はちょっと嬉しかったかも。

これで碧を狙う先輩社員とかはいないだろうし…






「そっか。良かった…」

「それを確認する為にここに来たの?」


しかも今わかったけど、資料を持って来るように頼んだのはもしかして2人きりになる為?





「社内で婚約発表したことだし…たまには会社でいちゃついてもいいかなと思って」


ニヤリと笑う碧を見て、私は一気に顔がカァッと赤くなる。





「は、発表したけど…私と婚約したってことは言ってないじゃん」

「細かいこと気にすんなよ」



碧はクスクスと笑いながら、資料室に並べられたパイプ椅子に腰掛けた。






「今日の碧なんかいつもと違う…」

「当たり前だろ。婚約を発表したんだから…浮かれるくらいいいだろ」
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