幼馴染みはイジワル課長
一週間後


いつものように課長について仕事をこなしていた。課長との関係は変わらず仕事のパートナーとしても、幼馴染みとしてもうまくいっているように見えた。




「この部分を20枚コピーしてくれ。あとJ社の資料を持ってきて欲しい」

「わかりました」

「…忘れていないと思うが明日は通販会社オレンジで新製品のプレゼン会議がある。この間話したようにお前にプレゼンしてもらう予定だ」


課長が私を引き止めパソコンに目を向けたまま言う。私はコピー機に行こうとしていた足を止めて、再び課長のデスクに体を向けた。





「…はい。明日は精一杯頑張ります」


毎日密かに会議の進行練習を家に帰ってからしていたし、新製品の勉強もちゃんと抑えてある。自信があるといったら嘘になるが失敗はしたくない。

それに…会議をするのはあのカタログ通販オレンジ。碧に好意を持っているあの金城さんがいる会社。

オレンジ社は以前からうちのキッチン用品を通販カタログに載せてくれていた会社で、新製品を紹介して継続してカタログに載せてもらうことが目的。

うちの会社とオレンジ社の付き合いは長い為、もし私の会議が失敗してもうちと契約打ち切ることはまずない。課長が私の初プレゼン会議にオレンジ社を選んだのはそれが理由だろう。

それがわかっているけれど人前に出て会議を進めることを考えると、やっぱり緊張してくる…





「これ…明日に役立つと思って書いておいたから目を通しておけ。会議での要点と新製品の特徴を箇条書きにしてある」

「え…」


課長が差し出したのはルーズリーフ2枚。そこにはびっしりと文字が書いてあり、ざっと目を通しても細かく書いてくれているのがわかる。




「ぁ、ありがとうございます」


わざわざ書いてくれたんだ…しかも手書きで。



「…明日は期待している」

「はい!」


私は課長に頭を下げてその場から離れてコピー機に向かった。課長がくれたルーズリーフで顔を隠して嬉しい気持ちを抑え、指示された書類をコピー機にかける。




やばい…泣きそう…

このルーズリーフ…絶対捨てない…


涙をぐっとこらえて、私は改めて明日の会議に向けて自分に喝を入れた。






翌日


いつもより早く目覚めてしまい、課長が書いてくれた要点の用紙を朝から眺めている。

もう何回この用紙を読んだだろう…碧の昔からわからないきれいで癖のある字を見て何度心が暖かくなったかな…


買ったばかりの黒のスーツを着て、課長に注意されたスカートの丈もひざ下まで下げて、ワイシャツのボタンも上までしめた。

ほんのりとメイクを乗せストレートにブローした髪をシュシュで束ねる。そしていつもより20分も早く家を出て会社へ向かった。


通勤電車の中でも課長からもらった用紙に目を通す。これを見ていると落ち着く…絶対に会議で失敗しないような気がしてくるよ…


碧ありがとう…






「おはようございます」


オフィスに入るとちらほらと社員が出勤していて、私は丁寧に挨拶をして自分のデスクに腰をかけた。
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