幼馴染みはイジワル課長
「奥さんと離婚するって言ってたけど時間はかかるだろうな…」


他人事のような口調で言い、考えただけでもゾッとするのか碧は嫌な顔をした。




「…どうして?」

「あの奥さんがそう簡単に別れてくれるとは思えない。昨日の食事の時だって俺に会社での部長の様子を質問攻めだったしな」

「そうだったの?」

「ああ。俺を食事に誘ったのはそれが目的だよ…夫の不倫相手の事を探ってるんだろうな。今日だって昼休みにわざわざ会社に来たのは夫を監視する為だよ」



なるほど…あんなに綺麗で優しそうな奥さんがそんな探偵みたいな事してるとはとても思えないけど、碧の読みは当たってると思う。





「部長には悪いが自分のまいた種だし自業自得だな。それに離婚が成立したとしてもその間に山城に男が出来ればそれはそれ。仕方ない事だよ」


歩未ちゃんを迎えに行くつもりでいる部長だけど、それがいつになるかわからないから…歩未ちゃんにこのことは話すのは出来ないよね。

「部長を信じて待ってて」なんて…そんな残酷な事は言えないな…好きな人が別れるのを待つのってそんな辛いことってないよね…

その間にもしかしたら歩未ちゃんに他に好きな人ができてもおかしくないよね。それに歩未ちゃんも時間が経てば心代わりしてもおかしくないよ。




「山城に新しい男が出来たとしてその時に2人を部長が引き裂くような事はして欲しくないよな。せっかく一歩踏み出せたのにまた戻るのってどうかと思うけど…それって冷たい考えかな」


うーんと考える碧を見て、私もじっくりと考えてみた。




「確かにそうかもね…歩未ちゃんにもし新しい彼氏が出来て幸せそうにしてるのに部長が歩未ちゃんにまたちょっかいとか出したらムカつくかも…だって部長にそんなことされたら歩未ちゃんは絶対部長を選ぶでしょ?」

「だろうな」


そうなった時は部長は大人しく身を引いて欲しい…申し訳ないけど…






「仕事人間の部長が色恋座他にこんなに弱いとは思ってなかった…意外だったな」

「あんなに部長に愛されてるのに歩未ちゃんは知らないなんて…かわいそうだな」


それに、歩未ちゃんの中ではもう部長とのことは終わったものになりつつあるのに…




「仕方ないだろ。さっきも言ったけどそれも不倫した罰だよ、山城もな」


そっか、部長ばかり責められない。歩未ちゃんも部長が結婚してるの知ってて付き合ってたわけだし…





「2人の気持ちがずっと消えなけばいつかまた一緒にいられるよ。今はそれしか言えないな」

「…うん」


少しロマンチックだと思ってしまう私はおかしいかな?やっぱり私は心のどこかで、歩未ちゃんと部長の事を応援してるんだ…碧の言う“いつか”を信じていたい。





「…落ち着いたみたいだな。もう大丈夫か?」


私を見下ろす碧の顔を見上げると、安心したような表情をしていた。





「うん、もう平気!本当にごめんなさい…」

「謝るなよ。俺とお前の付き合いなんだから」


碧はそう言うと、ポケットからタバコを出してライターで火をつけた。白い大人の香りに包まれながら私はもう一度碧の横顔を見つめた。



俺とお前の付き合い…か。

碧と私はもうどれくらいの付き合いだっけ…
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