幼馴染みはイジワル課長
ビクッ




「は、はい!」


課長に名前を呼ばれ、カチンコチンに緊張しながら返事をする私。





「T社とJグループの資料を持ってきてくれ」

「…わかりました!」


スっと立ち上がり私は小走りで資料室へ向かった。





ガチャ


資料室に入り1人になると緊張が少し緩んで力が抜ける…


昼間は碧の前で散々泣いたくせに…オフィスで2人きりになったくらいでなんでこんなに緊張するんだろ…

しっかりしなきゃ…2人きりといえども仕事中なんだから!


私は自分の頬をパンパンと叩き気合いを入れたあと、課長に指示された資料を持って資料室を出た。






「資料持ってきました」

「ありがとう…」


課長のデスクに資料を置くと、課長はパソコンに目を向けたまま一言お礼を言う。私は自分デスクに戻ろうと課長に背を向けた。その時…





「桜花」

「え…」


課長に呼び止められ振り向くと、課長は私に目を向けていた。

苗字じゃなくて名前で呼んだってことは、今は上司と部下の関係じゃなくてもいいってことだよね?オフィスで仕事中なのに珍しいな…






「悪いけど…こっちのデータ打ち込みをやってくれないか」

「わかりました」


自分のデスクに積まれた資料をぽんと叩く課長に私はすぐに頷き、また課長のデスクに近づいて資料を手に取った。





「…こっちのパソコンでやれば?」

「え…」


碧は自分のデスクの2つあるパソコンのうち、使ってない方のノート型のパソコンを指差して言った。





「離れてると指示出しにくいから出来れば近くにいて欲しい」


そうボソッと言うと、課長はまたパソコンに目を向けた手馴れた手つきでキーを打っていた。




「はい!そうします」

「そこの椅子適当に使えよ」

「わかりました」


課長に言われた通り、私は近くのデスクから椅子を持って来て碧と人一人分くらい開けた隣に座った。そして資料に目を通しながらパソコンにデータを打ち込んでいく。


突然、課長の隣で仕事するなんてそれこそ緊張するけど…今は嬉しいドキドキの方が上かな。明日歩未ちゃんに報告することがあって良かった♪





「…ごめんな。今夜はお前の家に行く約束してたのにこの分じゃ遅くなりそうだ」


課長が仕事をしながら私に話しかける。





「いいえ大丈夫ですよ。うちは来ようと思えばいつでも来られるし…」


実は親には碧がうちに来るってことを連絡するのを忘れてまだ言ってなかったんだよね…

碧がうちに来てくれることが嬉しくて舞い上がって忘れてた(笑)






「お前いつまで敬語使うんだ?2人の時は使わなくていいって言っただろ」

「あ…」


そうか…やっぱり今はいつも通りの2人に戻ってもいいのね…




「そうだね…」


私はコホンと一息入れたあと、切り返すように頷きパソコンに向かう。


静まり返ったオフィスに、私達のキーボードを打つ音が響いて緊張の糸は段々とほどけて今はだいぶ落ち着いてきた…最初は緊張するけどやっぱり碧といると落ち着くな…
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