幼馴染みはイジワル課長
ひっどい顔…メイクもボロボロだし…


こんな顔でさっきまで碧と話してたと思うと、すごく恥ずかしい…







「…どこに行くんだ?」


カバンを肩にかけてオフィスから出て行こうとすると、碧に声をかけられた。



「トイレ…顔洗ってくるね」

「そうか」

「すぐ戻るから」


私は小走りでオフィスから廊下に出て、部署から一番近いトイレに駆け込んだ。

そして洗面所で顔を洗ったあと、軽くメイクをする。腫れた目を隠そうと頑張っても、やっぱり目が3の数字みたいに腫れている…


もう10分はトイレにいるし、早くオフィスに戻った方がいいよね。碧の仕事がまだ終わってないなら、手伝ってあげないと…

だけどここから出たら、碧と私はどうなっちゃうだろう…



さっきのあのキスは…どういう意味?なんて怖くて聞けないけど…

ちゃんとそのことに対して話したい気持ちもあるし…


お互いの気持ちを確かめるのが怖いよ。でも、確かめずにこのままなかったことになるのはもっと怖い…

今までずっと碧から逃げてきたけど、もう逃げたくない…








「あ…」


ほんのりと乗せる程度のメイクをして急いでトイレから出ると、廊下の壁に碧がもたれかかっていた。


もしかして待たせてた…?







「ごめん…メイク直してて」

「…本当だ」


私を見る碧の表情を見ると、ドキッと胸が高まる。優しくて…私を包み込んでくれてるような顔だ…






「戸締りしてくるから下のロビーで待ってて」

「あ、うん…わかった」


碧はオフィスの鍵を手に持っていた。






「逃げんなよ?」

「えっ?」


エレベーターに向かう私を引き止め、疑うように睨む碧。





「に、逃げるわけないじゃん!」

「…ずっと俺を避けてたくせに」

「う…」


私がずっと避けてたことを、今ここで蒸し返す???それはちょっとズルイ気も…





「もう逃げないよ!」

「……」


ムキになったように言うと、碧は表情を変えないまま私に背を向けてオフィスの方に行ってしまった。

ちょうどエレベーターが来て中に乗り込んだ私は、ボタンを強く押して1階へ降りた。






碧ってば…

ここまで来て私が逃げると思ってるんだ…


ムキになっちゃったけど、碧がそう思って当然だよね。

碧が言うように、私はずっと碧を避けて来たんだから…



もう逃げないって誓った…



逃げないから

碧のそばにいたい…











1階のロビーに降りて、風に当たりたくて一旦外に出て入り口の自動ドアの横にもたれかかる。

夜のオフィス街をぼんやりと眺めながら、碧のことを考えていた…



碧のキスが今も鮮明に唇に残ってる…


私…碧とキスしたんだよね…

何度考えても夢みたいなことに思える…



嬉しい気持ちと同じくらい、梨絵に対しての罪悪感が胸に沸き上がってくる。


ごめんね梨絵…

本当にごめんなさい…




最初から最後まで私は裏切り者だよ。









「ロビーにいろって言っただろ」

「わ!」


急に自動ドアが開いて碧が出てくると、眉をしかめながら私に近づいてくる。


考え事してぼーっとしてたから、素でびっくりしちゃった…

まさかこんなに早く碧が来るとは思ってなかったし…







「ご、ごめん…」

「ったく…いないと思ってちょっと焦っただろ」

「…ごめん」


すぐにロビーに戻ろうと思ってたけど、今言っても言い訳になっちゃうからやめよ。
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