幼馴染みはイジワル課長
部長は碧のそのセリフにまた笑うと、「わかったよ」と言って微笑んだ。

そして私も席を立ち碧の横に立つと、部長と歩未ちゃんに挨拶して2人でファミレスを出た。







「…昨日ぶりだな」


外に出ると、碧はさっきとは違う雰囲気を出して私に話しかけてくる。

部長と話していた時の碧はやっぱりどこか仕事モードの碧で、話し方や表情…仕草までもきちんとしていて丁寧。

私と2人きりになるときちんとしていることには変わりないのだけれど、どこか柔らかくて優しい雰囲気になるんだ…その変化に気づいた時は、心のどこかで少しだけ惚気けてしまった…







「そうだね…」

「あれ。なんか元気ないな…友達が幸せになれて嬉しくないのか?」


駐車場に向かう途中、碧は私の複雑な気持ちを察したように聞いてきた。






「…嬉しいよ。すごく…でも……なんか自分がすごくいけない事したような気がして…」

「何したんだよ」

「部長から完全に卒業しようとしてた歩未ちゃんを引き止めて、部長と会う手助けしちゃった…」


なんか勢いでしちゃったけど、本当にこれで良かったんだろうか。






「良かったんじゃないか。お前が手助けをしてたとしても、最終的には山城が決めたわけだし…」

「そうなんだけど…」


やっぱりどっかで奥さんのこと考えちゃう私って、本当に面倒くさい!

この性格って疲れるわ。







「部長はもう迷わないと思うよ。奥さんと離婚して山城のことを選んだんだから」

「この先うまくいくかな?」

「それはわからないけど…部長はちゃんとけじめつけようとしてるから…まぁ、今のところは大丈夫なんじゃないか」


碧の車に乗り込むと、私は助手席に座りシートベルトをつけた。碧はタバコに火をつけてエンジンをかける。







「今のところは…か」


あとは本人達次第ってことなんだろうけど…一度別れた2人だから心配だよ。






「そんなに心配すんなって」

「だけど…今は別居中なだけでまだ奥さんとは正式に離婚してないんでしょ?」


それって…結局不倫なんじゃない?

あー自分のこういう細かいところも嫌!変なところ真面目ですいません!







「あの奥さんを説得して、別居まで持ってったのはすごいと思うけどな。部長は100%自分が不利な立場でいいから、とりあえず早く離婚をしたいって言ってる」

「ふーん…」


確かに部長の奥さんは前に会社にまで来てたような人だし、すんなり離婚してくれるタイプの人ではないか。別居までこじつけたのはある意味すごいことってことね。







「実は今日…俺は部長の引っ越しを手伝いに行ってたんだよ。その帰りに山城のスマホからお前が電話して来たから、急遽俺もここに来たってわけ」

「あ、そうだったの?」


だから碧も部長と一緒にファミレスに来たのか…これで謎が解けたよ。






「引っ越しもしたし、とりあえず大丈夫だと思うよ。あとは弁護士に任せて無事に離婚が成立するのを待つだけだな」

「うん…」


無事に離婚を待つ…か。

こっちからしたら待ち遠しいことだけど、奥さんからしたらどんな心境なんだろう…

そんなことを考えてしまうのはどうしてかな。さっき歩未ちゃんを説得していた時の勢いはどこに行ったの…?

勢いって怖いわ…








「世の中は正義だけでは渡り歩いていけないんだ。時には悪が勝つ時だってある。それが世の中だ」


車を運転しながら碧が口から白い煙を出す。私はその横顔を見つめ、碧の話に耳を傾けた。







「お前の気持ちもわかるけど、仕方ない事もあるんだよ…」


灰皿でタバコを消すと、碧は助手席に座る私の頭を優しく撫でた。







「だけど、俺はお前のそういう優しい所が好きだ。友達だけじゃなく赤の他人の気持ちまでも考えられるなんて…中々出来ないぞ。だからそんなに自分を責めるなよ」

「碧…」


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