【短編】英国紳士は甘い賭け事がお好き!
「じゃあ、その扇に桜の花が舞い落ちれば貴方の勝ち。私は貴方のものです。でも、扇に桜の花びらが落ちなければ、私の勝ち。……貴方の手腕を見せていただきます」
精一杯の嫌味を込めて言ったのに、デイビットはにこやかに笑うだけ。
「時間は?」
「最初に落ちた花びらが、地面に落ちるまで」
ルールも美麗に決めさせ、余裕のデイビットは、スーツの上を脱ぐ。中のベストは、引き締まったデイビットの体を更によく魅せ、見とれてしまほどだった。
「あ」
「あ?」
扇を開くと同時に、ひらひらと花びらが舞い降りてきた。
勝負はすぐに着いた。ほんの一瞬で、神様が瞬きした瞬間に。
「今日の、五時にお迎えに上がりますね」
桜の花びらは、デイビットの扇の中に舞い降りた。吸いこまれるように、磁石のように。
目を見開いて口をパクパクする美麗の袖を掴むと、甘い口づけを落として。
「そのジャケットは、それまで持っていてくださいね」
笑う。裏なんてないと思わせるように。美麗は知らない。恋愛も、身を焦がすような衝動も、駆け引きも、何も知らない。
この日まで知らなかった。