危険なお見合い
凪子はとてもショックを受けたが、すぐにはっきりと凌路にこう答えた。


「ライドには私も手を焼いていました。
彼が誰かを苦しめるたびに、父親はもみ消しを、私は見て見ぬふりをしていました。

けれど、下の息子が大きくなって言ったんです。
『僕は食べていけるくらいの生活しか母さんにさせてあげられないかもしれないけど、誰にも迷惑をかけずにやっていくから。』って。

傲慢な父親の血を受け継いでいる子どもたちといえども、こんなにも考え方が違うなんて兄弟に何があったのかは私にはわからないけれど、ライドにはもう罪を重ねてほしくないし、優理香さんみたいないい娘さんにひどいことをしたなんて・・・なんてお詫びしたらいいのか・・・。」


「それをきいて安心しました。
あなた方家族がみんな他人を痛めつけるような人物なら、俺はあなたをここから追い出さなくてはならなかった。

あの・・・もし、もしなんですけど・・・ライドがここにやってきて優理香を怯えさせるようなことをした場合は俺は優理香を絶対守りたい。

その結果、ライドに怪我をさせてしまうかもしれない・・・。
それでもかまいませんか?
見たくないなら、べつの地域の施設をご紹介しますが?」



「いえ、私は優理香さんとお話していたいわ。
ライドのことを知ったらもう口をきいてくれないかもしれないけれど、ライドのしたことはおわびしなくては。
それに、私も優理香さんを守ることについては賛成よ。
悪いのはライドだもの。

そのうえにまだ悪いことをするなら、痛めつけて警察にでも突き出してちょうだい。
もう見ないふりはしません。私も優理香さんを守ります。」



「松田さん・・・俺もここの職員も松田さんをお守りします。
いつものように、ここへきて楽しんでいってください。」


「ありがとう。
優理香さんは怖い目をしたけれど、いい旦那様にめぐりあえたのね。
よかったわ。」


「えっ・・・は、はぁ。」
(こんなふうにいわれるのはこそばゆい気分だな。
便宜上の結婚を説き、実際は部屋さえ別なのに・・・)




夕方になって凌路はやっと調理場で見つけた。

「なぜ、ここにいるんだ?」


「食事のお世話をさせてもらったんです。
それでさっきまで洗いものとお掃除をして・・・」


「そんなこと君がやらなくてもいいだろう。
君はまだ療養中だし・・・俺の妻なんだし・・・。」


「でも、こんなことでもしないと私はここでやることがないんだもの。
療養中っていっても、あなたのことは克服できたし、もう謝ってもらうこともないですから。
だから、私はライターの仕事を・・・」

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