危険なお見合い
だんだん仕事にも慣れてきた優理香は、社員寮でも人気者になり、小さな社内誌を書くようになっていた。


「明日は『ひだまり』が配られる日ね。」


「私、とっても楽しみなの。
こんな地味な仕事をしてる私たちなのに、『ひだまり』に出てる私たちも社員みんなもまるで都会の派手やかなオフィスレディみたいなんだもん。」


「そりゃ、見た目はたぶん、田舎クサイんだと思うけど、優理香さんの文章が入るとほんとにおしゃれな広報誌になっちゃうのよね。
おみやげものだってまるで、パリにでもいってきたみたいなんだもん。
ほんとに不思議よね。」


「ほめすぎですよ。私はそういう雑誌を手掛けてた・・・っていうだけですから。
今は皆さんと同じ販売のお仕事をしていますから。

静かでそれでいて歴史のある商品が並ぶこの店はすてきです。
品揃えが何と言ってもいいのが強みですよ。」


「そりゃね~。店長のこだわりっていうか、あの人も昔は都会の大きなホテルのホテルマンだったらしいけど、あなたと同じでこの町が好きだからやれることなのよ。

ただ、優理香さんと違って店長は生まれがここだから、故郷に錦を飾る!ってやつかもね。」


「なるほどぉ・・・。」



今日の勤務時間もあと10分ほど・・・というところで電話のベルが鳴った。


「はい、ひだまり屋本店でございます。」


「やっと見つけた・・・。」


「えっ!」


「ひだまり屋でがんばってたんだな。優理香!」


「凌路・・・さ・・ん。
な、誰かとお間違えでは?
それでは失礼いたしま・・・。」


「待ってくれ!菅谷から連絡をもらったんだ。
君がどうしても俺にまだ会いたくないならそっちには行かないから・・・しばらくきいてくれ。」


「どうして・・・あの、私がそちらにいるとご迷惑がかかるんです。
姉が日本にもどってきてるはずですし、もう凌太さんにご迷惑がかかってるかもしれないし。」


「そのことは気にしないで。
君のお姉さんは確かに凌太と接触したよ。
でも、我が弟も同じ過ちをするほどバカではないからね。
帰国の歓迎やプレゼント程度はしたらしいけど、事業の手伝いまではね・・・。
俺たちも大人になったってことさ。

だから君もそんなことに気を遣うことなんてないからね。
そうそう、『ひだまり』見たよ。」


「えっ・・・どうして。」


「菅谷が送ってくれた。とても君らしい優しい記事ばかりだ。
悔しいけれど写真もイケてる。
どうしてカメラマンに呼んでくれなかったのか、腹が立ってる。」


「ぷっ・・・怒るのはそこなの?」


「いいや、菅谷の心を動かしたところが気に入らないんだ。」


「えっ?店長の心がなんで?」


「彼は君を好きになってしまったんだ。
でも『ひだまり』の記事を読んで俺と作ってた雑誌を思い出したそうだ。
怒った様子で俺のところへ乗り込んできて、弄んだのかって怒鳴りやがった。」


「そんな・・・店長がそんなこと・・・。」


「あいつは正直で怒ったときは顔に出てわかりやすいんだ。
けど、俺がそんな人間でないことをちゃんとわかってるやつでもある。」
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