run and hide
ああ・・・人のいい男を好きになったのが私の敗因か・・・。
でも、と携帯を握り締める。
私はこの人から離れて、新しい生活を手にいれるのだ、ともう決めたんだ。
心を鬼にしよう。
『恋人を作りたいの。正輝に構ってる暇なんてないの。ごめんね、メルアドも変えるから』
それだけを自己新の素早さで文字入力すると、送信!と叫んで大げさに携帯を振りかざしてボタンを押した。
さようなら、私の小さな恋。
さようなら、そこそこ格好良くて優しくて眩しい笑顔の、好きだった男。
さようなら――――――――
ところが、そうは問屋がおろさなかった。
正輝が実はやり手の営業だったと思い出したのは、昼休みだった。
お昼を食べて化粧を直し、トイレから戻ってくると、受付の姫子が笑顔で手を振っている。
「梅沢さん、お客様だよ~」
まだ24歳のおきゃんな受付嬢をここまでニヤニヤさせる客って、誰??とか思いながら、急いで応接室3号に向かう。
手順であるはずの名刺預かりもしてないなんて、もう、どんな用件かわからないじゃないの。別にアポとかないしな・・・。様々なクライアントの顔を思い浮かべながら、私は早足で廊下を進んで行った。
「失礼します」
ノックした後、がちゃりとドアを開けて、笑顔を浮かべた私はそのまま固まった。