run and hide
自分で携帯を操作して正輝を追い出したのに、もう彼からメールも電話もないかと思うと苦しかった。
朝の光りの中、ベッドの上で、私は拳で自分の頭をボカボカ殴った。
いい加減にしなさい!!振り向いてくれない男を追いかけるのは終わりよ!
さて、と一々号令をかけて朝の支度をする。ともすればぼーっとしてしまう自分が憎らしかった。
何とか身支度を終えて、今日はゴミの日だからとゴミ袋を持って部屋を出た。
カツカツとヒールを鳴らして1階に降りる。ううー、先週はバタバタしててゴミを捨て忘れたから、重い~・・・。よろよろとエレベーターを出たところで、アパートの入口で佇む人影に気付いた。
「おはよ」
「・・・・・」
何故、正輝がここにいるの。
私はしばらく止まった状態で、状況の理解に努めた。
「・・・・えーっと。どうしてここにいるの?」
とりあえず、聞いてみる。
平日の午前7時半。正輝が私のアパートの前に居たことは、約6年の付き合いの中で一度もなかった。
濃紺のスーツに青のストライプのネクタイをしめ、本日も実に爽やかな外見で、当然みたいな顔をして正輝はそこにいた。
「ケータイが通じないから」
「・・・・」
正輝の返事は黙殺する。それは私がしたことだし、言い訳の必要もない。
立ち止まったままの私に向かって、正輝はスタスタと近づいてきた。
「着信拒否にメルアド変更は、ちょっと酷くないか?俺、凹んだぜ」