run and hide
その言葉に目線を合わせず、私は口元だけで笑う。
「・・・私の本気を判ってくれるかと期待したんだけど」
すると正輝はひらりと手を振った。
「だから、俺の本気も判って貰おうと思って」
・・・・それで、来た、と。
ううーん。
私は思わず天を仰ぐ。
おかしいな・・・・。この人から離れるのはもうちょっと簡単だったはずだけど・・・。
正輝はチラリと私が持ったゴミ袋をみて、かして、と手を出した。
「これ、出すの?ゴミ置き場どこ?」
私はアパートを出て右側のゴミ置き場を指差す。正輝は私の指先を視線で追って頷くと、重いゴミ袋を持ってそちらに歩き出した。
私は一瞬で判断した。
脳が告げていた。この男を忘れたければ――――――――
逃げろ!!!
私は正輝がゴミ置き場に向かってアパートのエントランスを出たと同時に反対側にむけてダッシュした。
靴が邪魔で脱ぎたかったけど、そんなわけにもいかないから出来る限りの速さでそこを立ち去った。
鞄を掴んで、息を切らせて。
責任感のある(ハズの)正輝がゴミを捨てるために私を追いかけられないことを願って。
駅までダッシュ。汗をかきながら乗車。電車の中で一人だけ荒い息をつく変な人になっていた。