run and hide
「美味しい。流石ですね」
バーテンダーに笑みを送り、それからおもむろに正輝を見て口を開いた。
「また振られたのね」
一瞬痛そうな顔をして、正輝が唸る。
・・・ああ、やっぱりそうなんだ。私が呼び出されたわけは。
正輝はそろそろと口元を片手で覆い、小さな声で言った。
「・・・・俺、何がダメなんだろうか・・・。何か足りてないんだよな、多分」
――――――人を見る目だろ。
思わず自分の中で突っ込みをいれてしまって、いかんいかんと頭を振った。
そんな、身も蓋もないことは言ってはいけません。危ない、口に出してしまうところだった。
「どうせまた高嶺の花を狙ったんでしょう」
今度の彼女は2ヶ月か。ま、前のよりはもったほうだよね。私は心の中でそう呟いて、こっそりとため息をついた。
前の会社での同期だった井谷正輝は、よく女に振られる。
私はその度に酒に付き合い慰めるハメになる。
外見は並の上、もしくは上の下。町や会社では「彼、格好いいんじゃない?」と言われるタイプだ。
身長だって日本人男性の平均はいってるし、物腰も柔らかで仕事だって真面目にやる。
お酒もほどほどに嗜むし、タバコは吸わない。