run and hide


 っつっても、まだ終業のチャイムは鳴らない時間だ。

「・・・・ごめん、迷惑かけてる自覚はある」

 仕方ないので素直に謝ったら、え、と驚かれた。

「・・・・どうしたの。お前が素直に謝るなんて、雪でも降るんじゃねー?」

 降るかっつーの。今5月でしょうが・・・。

 私は、あーあ、と呟いて、亀山に向けて鉛筆を放り投げる。それを器用に避けて亀山が文句を垂れた。

「本当に鬱陶しいな。昼間電話かけてきたヤツが関係あるのか?」

 私はじろりと同期を睨んだ。

 そう、正輝は懲りもせずに昼間、うちの会社に電話をかけてきた。亀山が取り次いで、私が受話器を取り、相手が判った瞬間に受話器を置いて電話を切ったので、亀山はドン引きしていた。

「そうよ」

 唸るような私の返事に、雑誌を丸めて頭を掻きながら亀山が言う。

「あれ、お前の彼氏?」

「・・・私に彼氏がいないことは君は知っているはずではなかったっけ?」

「いや、だから出来たのかな、と。何で拒否してんの?」

「放っといて」

「いや、このまま続くと更に仕事がはかどらなくて、俺、迷惑だからさ」

「・・・・・ううう~」

 長年片思いをしていた男性から今では逃げるハメになった状況を説明するのが面倒臭いので、私はジャケットを着て鞄を持ち立ち上がった。

「挨拶周りしてくるわ。それで、そのまま直帰するね。明日には立ち直るから今日は許して」


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