run and hide


 亀山はずり落ちた眼鏡を指で上げると肩をすくめて、なら、と私にお使いを頼んだ。

「笹山コーポレーションの担当の有川さんに届けてくれる?」

 ずっしりと思い茶封筒を受け取る。

 ・・・・笹山コーポレーション・・・。正輝の会社が近くにあるので出来たら行きたくないけど、そんなわけにもいかないよね。

 一日一回くらいはちゃんと仕事をしよう。

 仕方なくそれを鞄に仕舞った。

「了解。電話だけいれといてね」

 オッケー、と手を上げる亀山に、お先、と頭を下げて会社を出た。

 5月の夕方で、強い風に髪が巻き上がる。

 今日一日で摂取したコーヒーとタバコでお腹はえぐい状態だったけど、爽やかでしっとりとした風に吹かれて少しだけ気分も持ち直す。

 ・・・髪、切ろうかなあ~・・・。

 肩を越えるくらいの長さでここ数年過ごしてきた。その長さは正輝が好みだと知ってからは、ずっと。

 いっそ、ショートカットにしてみようか。

 これから夏だし。

 外見も気分も変えて。

 私はヒール音を響かせながら、どんな髪型にしようかと考えつつ歩いていた。




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