run and hide
正輝はぶすっと答える。
「ただの、じゃない。お前は俺の―――――」
「「大切な友達」」
ハモってやった。毎度毎度同じ答えを返す男だ、まったく。私にハモられて、更に不機嫌そうに口元を歪めた正輝を見上げた。
やつのスーツの胸元をぽんぽんと叩く。
「日曜日にお見合いなの。ちゃんと成立したらまた連絡するわ。じゃあね」
体中から勇気をかき集め、最後ににっこり笑ってみせた。
「おい、翔子―――――」
私は出口に向かいながら背中をむけて言う。
「気をつけて帰ってよ。あんたもいい女見つけなさーい」
今度こそ、本当にあんたを愛してくれる女を。
そして、店の外に出て、ドアを閉めると同時にダッシュした。
ヒール音を響かせて駅まで走る。まったく、私毎日走ってるじゃないの!!
いい運動だわ・・・とホームで上がってしまった息を整える。
日曜日のお見合いは嘘だ。話は確かに母親が持ってきたが、写真もみずに断った。
この日曜日には髪を切りにいこう。私は胸のうちでそう決める。電車が風と一緒にホームに入ってきた。
湿った空気だなあ、と思ってはいたけど、電車に乗っている間に雨が降り出した。
窓からその空を見上げる。
きっと、疲れて窓枠に頭をつけてもたれる私の代わりに、泣いてくれてるんだろう、空が。
そう思うことにした。