run and hide


 私は見たくないのだ。その時にきっと正輝がするであろう、困惑した瞳を。

 私を傷つけまいとして一生懸命になるだろう姿を。

 ――――――ダメだ。やっぱり嫌だ。そんなのは見たくない。

 よし、と声に出して気合を入れる。丁度横を通りかかったサラリーマンが驚いて私を凝視し、急いで過ぎ去って行った。

 私は、鬼~に~なるぞおおお~♪と振りをつけながら一人で歌い、壊れた人間となって正輝の新しい電話番号を拒否設定にした。

 駅前で。

 まったく、怪しい人間だった。


 結局その後、私は3回目のメルアド変更をして、正輝の電話番号を二回着信拒否にした。変えても変えても共通の知人から私の新しいメルアドを聞き出してはメールしてくるのだった。いっそのこと携帯を解約しようかと悩んだほどだ。

 ここまで来たら、もう意地になってるとしかいいようがないほどの勢いで、諦めずに正輝は私を追いかける。

 世界共通で、これはストーカーと呼ばれるレベルじゃない?というほどだった。

 朝待ち伏せされると気付いてからは、電車を1本早くしたし、会社にかかってくるのは全部亀山に回してやった(当然、亀山からは苦情が来た。それはバーボンを一瓶贈ることで和解した)。

 髪の毛を切ってから正輝の視界に入ることからは逃げれている。いつも先に私が気付くので、どこでもちゃっちゃと逃げていた。

 正輝から逃げ出して一ヶ月が経つころだった。

 まさか、こーんなに大変だとはお釈迦様でも思うまい、実はしつこい性格だったのね、と正輝の一面を発見したりして。

 こんなに拒否られたら普通諦めるよなあ~。恋愛感情が入ってない分、傷つくことがないから出来るのかもだけど。


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