run and hide


 鼻血が出るかと思った。

 興奮のあまり。

 どうぞ手を出してくれ。今すぐに!!どうしても声が出てこないから、心の中で絶叫した。目から光線とか出せないものだろうか。ビームを発射してこの男を捕らえたい。あああ・・・人間の体って何て不便なんだ!

 体の底から強烈な喜びがわきあがって来て、震えた。

 ちょっとちょっと遂に!!遂に私は両親から授かった性を認めて貰ったんだあ~!!

 ああああ・・・・・神様、仏様、その他世界各地信仰の対象の皆様にご先祖様・・・ありがとうございます。私、私、遂に―――――――――――


 極度にパニくって固まる私を見て、正輝が続ける。

「驚くよな。悪い。とにかく、帰る。また――――」

 心配そうに顔を曇らせて、言った。

「・・・電話していいか?」

 口を開けたままで、まるでバカ丸出しのスッピン顔で、私はコクコクと頷く。何とか首は動いた。

 それを見てやっと少し笑って頷き、正輝はじゃあ、とドアを開けた。

「・・・風邪、ひかないように」

 はい、と心の中で返事した。言葉はまだ出てこない。


 そして正輝は帰っていった。台風みたいな夜の中。



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