run and hide


 そしてあの嬉しそうな眩しい笑顔で、好きな人が出来たんだって私に報告するんだろう。

 私はいつでもここでジン・トニックを飲んで相槌を打つ。

 正輝の為に仕事を放り出して来て、化粧を直し、綺麗な形のスカートをはいて、自慢の脚をよく見せてくれるヒールに履き替えて。

 他の女に恋をする彼の笑顔を見詰めるんだろう。

 正輝も3杯目を飲んでいた。

 目元は赤くなって、完全に酔っ払っている。

 私はもう5杯目なのに、ちっとも酔えないで火をつけていないタバコをカウンターに打ち付けていた。コンコンコン。自分で音を立てて、それにイライラする。コンコンコン。

 ・・・くそ。

「・・・終電、なくなるわよ。もう帰ったら?」

 相変わらず他にお客さんはいなくて、マスターは隣の小部屋に引っ込んでいる。私に気を遣ってくれてるのが判っていた。

 んー?とトロンとした瞳を私にむけて、正輝は手をヒラヒラと振った。

「・・・どうせ帰っても一人だ。もうちょっと飲もうぜ・・・」

 でもそこで、時計を見て、あ、と言った。

 酔っ払った口調でたらんと言葉を続ける。

「―――――・・お前、大丈夫?明日も仕事だよな・・・」

 そこ、気付くんだから、私の存在にも気付いてくれる?

 長年あなたの近くにいた私を、そろそろ認識してくれない?

 などとは言えず、私はどうしようかと天井を仰ぎ見た。


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