run and hide


 もう翔子が家に帰っていれば、この雨で濡れて訪問するのは避けたい。それに・・・・。

 その時視界の端に、吹き込んでくる雨風から逃げもせずに駅の端ぎりぎりに立って空を見上げている女性がうつった。

 ふわふわのショートヘアで、スーツ姿の女性だった。何故か気になって良くみようと近寄ると、見覚えのある営業鞄に気がついた。

 あれ?・・・・この後姿・・・。

「翔子だ」

 呟きは雨の音に消されて届かなかったらしい。

 髪を切っていて雰囲気が変わり、判らなかった。

 目指す相手は目の前にいた。俺は近寄って、濡れつつある翔子の頭の上に傘を広げた。

 ハッとしたように翔子が振り返って、目を見開いた。

「―――――驚いた」

「・・・・俺も。翔子と判らなかった。髪型、変えたんだな」

 頷いて、言葉を返す。

 ずっとセミロングだった髪型はすっきりと短くなり、猫毛の柔らかい髪がカールして下りている。何色というのか知らないが明るい色にも染めているようで、以前より大分雰囲気が柔らかくなっていた。

 ショートカット、似合うじゃないか。

 ついしげしげと見ていたら、翔子はうんざりした表情を隠そうともせずにため息をついた。

「・・・あのねえ、君は暇なの?忙しい営業なら、女追いかけてる暇ないでしょうが」

 ――――――暇じゃない。現に今日だって、アポ一件無視してきたわけで。俺だって、自分でそう思ってる。

「優先順位って言葉があるの、知ってるか?」

 今は、翔子が優先順位が高いのだ。俺の精神安定剤。頼りになる格好いい女友達を取り戻したい。

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