此音忌譚 ―コノオトキタン―
中編 … 夢の底、紅の夢にたゆたう
ふう、と目の前に暗闇が刺し、落ちに落ちていく。
無明の闇と、無音の影。
瞼を落としたとて、ぱっちりと見開いたとて、なにも変わらぬ。
腹の底の落ち着きは、生来のもの。許婚にも称えられた、矜持。
捨てる積もりはない。
少女はそっと――それでも思い切る事が出来ずにそっと、双眸を閉じた。
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