いつかあなたに還るまで
「あれが火事場の馬鹿力ってやつか」
かなりの体格差に加えてこちらはフラフラ状態。多少自力で歩いていたとはいえ、華奢な彼女にとっては相当な重労働だったに違いない。
きつく握られたままの右手をじっと見つめる。
おそらく…自分はまたあの夢を見ていた。
振り払っても振り払っても纏わり付いてくる……悪夢。
またかと抗いながらもどこかで諦めていた自分を、突然温かな何かが包み込んだ。それは神経の末端から凍り付いた体にじんわりと伝っていき、やがて中心部までそれが届いた瞬間、吸い寄せられるように眠りの世界へと落ちていた。
この小さな体のどこにあれだけのパワーが秘められていたというのか。
気が付けば、反対の手で顔にかかる髪に触れていた。サラリとした柔らかな感触は、彼女のもつ雰囲気そのままだと思った。サラサラと真っ直ぐに、歪むことを知らない。
「……」