いつかあなたに還るまで
「ん…」
「!」
軽く身じろいだ志保に、慌ててその手を離す。
だがほんの少し動いただけでまたすぐにスースーと寝息が聞こえ始めた。
「…真っ直ぐで好都合じゃないか。その方がいくらでも自分を信じ込ませることができる」
そう。全てを目論見通りに運ぶには、彼女のような純真無垢を絵に描いたような女は願ってもない相手だ。だからこれ以上喜ばしいことはない。
それなのに…
グッと握りしめた拳に筋が浮かび上がる。
「…忘れるな。お前は決して忘れてはならないんだ」
暗示をかけるように繰り返す言葉は、体が弱っているせいなのか、それとも違う理由からなのか、この上なく弱々しく響いて消えた。