いつかあなたに還るまで


カタン…

キッチンで慌ただしく動いていると、リビングの扉がゆっくりと開いた。ハッと振り返ると、そこには隼人が立っている。さっきのことを思い出すと恥ずかしいやら情けないやらで泣きたくなるが、それをぐっと堪えて努めて冷静に笑顔を作った。

「あ…おはようございます。具合はどうですか?」
「…おはようございます。おかげさまで随分よくなりました」
「あの、熱は…?」
「さっき寝起きに測ってみたら7度台まで下がってました。志保さんのおかげです」
「いえ、そんな、私は何も…。というかむしろ…」

そこまで言いかけて慌てて口を噤んだ。
今は余計なことを言ってボロが出るのを避けたい。

「あの、勝手にお鍋を使わせてもらったんですけど…すみません。帰る前に少しでも食べられるものを作っておこうと思って…」
「そうなんですか。何から何までありがとうございます。なんでもお好きなように使ってもらって構いませんよ」

優しい言葉に自分の失態を思うとまた涙が出そうになる。

「いえ、とんでもありません。私の方こそ…勝手に押しかけてきてすみませんでした」

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