いつかあなたに還るまで
「?!」
驚いて振り返った志保の右手を握りしめているのは当然隼人しかいない。
「霧島さ___」
「偽善でもいいじゃないですか」
「……え?」
「偽善でも何でも、あの子達はあなたの存在に救われている。大事なのはその事実じゃないですか?」
「……」
「あなたがあの子達に向けていた笑顔も、あの子達があなたに向けていた笑顔も、どちらにも一点の曇りもなかった。僕の目から見えた事実はただそれだけです。それだけで充分じゃないですか」
「霧島さん…」
グッと痛いくらいに握りしめられた手に力がこめられる。
まるで自信を持てと言っているかのように。
志保は俯いてキュッと唇を噛むと、込み上げてきた涙と一緒に自分の心を揺さぶり続けていた迷いを呑み込んだ。
「…ありがとうございます。そう言っていただけるだけで、幸せです」
「僕も偽善者です」
「えっ?」
「あなたの心象を良くしたくて言った言葉でも、それであなたの心が軽くなるのなら、偽善も悪くないと思いませんか?」
「……」
一瞬呆気にとられたけれど、してやったりの顔でニッと笑った隼人につられるように、気付けば志保も笑っていた。