いつかあなたに還るまで

「先日施設に足を運ばれてからというものずっとその調子ですね」
「…そんなにわかるかしら」
「まぁ、気付かないのはよっぽど鈍い人間だけかと」
「う゛…」

ならばそのことに自分で気付けない私は超鈍感人間ということだ。
宮間は志保に忠誠を誓った人間だが、誰よりも近しいが故に時折姉のような立場で遠慮なくものを言うことがある。それは他でもない志保自身が望んだことなのだが…その度に言葉に詰まって狼狽するのはもうデフォルトされた光景だ。

「いいことだと思いますよ」
「…え?」

気恥ずかしさを誤魔化すように紅茶に伸ばしていた手が止まる。

「そういう志保様の表情が見られるのはとても喜ばしいことだと思います」
「喜ばしい…?」

心底理解できなさそうに首を傾げる志保に、宮間はいつになく楽しそうに微笑んでいる。

「志保様が生き生きとされている姿を見るのは私にとってこの上ない喜びですから」
「生き生き…?」

ただぼんやりしているだけなのに?

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