いつかあなたに還るまで

どういう意味で聞いているのかはわからない。
彼にとって変わっていることがいいことなのか悪いことなのか、志保には到底知りようもないことだ。

…けれど、彼がとても真剣な眼差しをしていたから。

「…はい、変わりました。最近の隼人さんはすごく楽しそうに笑ってます」

誤魔化したりせずに本当のことを言おうと思った。
自分から見た、隼人の姿をありのまま。

「………」

目を逸らすことなく真っ直ぐにそう答えた志保を隼人も無言のまま見つめている。周囲でテニスを楽しむ人達の声も音も掻き消されて。ここには二人しかいないかのような気がしてくる。
どうしてかはわからないけれど目を逸らしちゃいけない気がして。
時間も場所も忘れて互いにじっと見つめ合った。

そうして長い長い沈黙の後、

「……ふ、そうですか。志保さんがそう言うのならそうなのかもしれませんね」

どこか感慨深そうに隼人がうっすらと微笑んだ。

「…え?」
「いえ、何でもありません。残り時間も少ないですし、そろそろコートに戻りましょうか」
「え? あ、はい!」

彼が何を思ったかはわからないけれど。
それでもあの凍てつくような目をしなかったから。

きっと少しずついい方向に変化しているのだと信じて、志保も笑顔で立ち上がった。

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