いつかあなたに還るまで

「志保さんのおかげで僕も久しぶりにいい運動ができました。そのお礼と言ってはなんですが…あちらを見てもらえますか」

「えっ…? ___うわぁっ…!」

来るときには通らなかった小径に導かれると、少し進んだ先で目にした光景に思わず息を呑んだ。

「すごい…綺麗…!」

高台の入り組んだところにあるその場所には無数の花が咲き乱れており、その向こうには遠目に水平線が見える。ここから見るとちょうど海と花と空しか見えない構図になっており、夕暮れ時の今は夕日にを背に美しい絵画のような情景が広がっていた。
そのあまりの美しさに志保は言葉も出せずにただただその場に立ち尽くしている。

「………」

目の前の光景に心を奪われている姿を、隼人が少し後ろからじっと見つめていることに志保は気付かない。


「………綺麗…」


ポツリとそう口にすると、志保の大きな瞳からスーっと一筋の涙が伝い落ちた。

「…え? あ…! ご、ごめんなさいっ!」
「謝る必要なんて全くありません」
「ありがとうございます…」

差し出された紺色のハンカチにハッと我に返ると、志保は恐縮しながらもそれを受け取って自分の頬を濡らす涙を拭った。

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