いつかあなたに還るまで
「すごい、ですね…」
感動のあまりそれを言うだけで精一杯。
隼人は尚も目の前の光景に釘付けになっている志保の横に立つと、自分も同じ方向へと目線を送った。
「…今日車で来なかったのはあなたにこの景色を見て欲しかったから」
「…え?」
思わぬ言葉に志保が隼人の横顔を見上げる。
「歩いてもらったのでわかるでしょうが、この辺りは入り組んでいて車では入れない場所があるんです。多少無理をしてもらうことになりますが…それでもこれをあなたに見せたいと思ったんです」
「隼人さん…」
「僕もここを見つけたのは偶然でした。何かの時はここに来て時間も忘れて一人でぼーっとするんです。そうすると何もかもが浄化されていくような気がして」
「……」
「僕にとって特別なこの場所を…あなたにも気に入ってもらえたなら嬉しいです」
そう言って志保の方に体を向けると、隼人はフッと気が抜けたように笑った。
何故なら止まっていたはずの志保の涙が音もなく滝のように溢れ出していたから。