いつかあなたに還るまで
「言いたいことはそれだけか?」
「……え?」
愉快そうに笑っていた声が止まる。
見ればさっきまで都合良く見えていた笑顔はさっきの睨みよりもよっぽど恐ろしい光を放っていて、その不気味な薄ら笑いにゾクッと背中から震えが走った。
「俺がどんな目的をもっていようとお前には一切関係のないことだ」
「なっ…!」
「色んな意味で満足させてあげられる? それが真実なら俺はお前と別れる選択をしていない。よほど自分に自信があるようだが…お前の出る幕はない。残念だったな」
「____っ」
容赦ない言葉に絶句する里香子にニヤリと笑うと、腕に絡みつく香水臭い体を思い切り振り払った。呆然とする女をその場に残したまま、隼人は一切振り返ることなくマンションの中へと入っていく。
「っ、ふざけないで! あの子がどうなってもいいって言うの?!」
それは立派な脅迫だった。
言うことを聞かなければあの子に何かするぞ、そう言ったも同然だ。
立ち止まるつもりのなかった隼人の足がピタリと止まる。