いつかあなたに還るまで
ゆっくりと振り返った隼人の顔を見て里香子が息を呑んだ。
凍り付いたように立ち尽くす女の目の前まで大股で戻っていくと、隼人は一見キスをしているかのように見える距離まで顔を近づける。
「やりたいならやってみればいい。…ただし後になってお前がどんなに泣いて許しを請おうとも俺は容赦しない。やるならその覚悟の上でやるんだな」
「……っ!」
サーッと青ざめていく里香子に表情筋一つ動かさず、隼人はただ無表情のまま至近距離からじっと見ている。
言葉もなく、顔色一つ変えないその姿こそが恐ろしかった。
結局それ以上一言も発することなく中へと消えた隼人に、いなくなってしばらくしてようやく里香子がひゅっと息を吐き出した。
「…っふざけないでよ…これだけコケにされたままなんて絶対に許さないんだから…!」
それをぶつけたい相手はとうにいなくなっている。
だがこれが言わずにいられるものか。
本当に、このままみすみす捨てられてたまるものか。
自分を奮い立たせるように吐き出した言葉は、だが誰が聞いてもはっきりわかるほどに震えていた。