いつかあなたに還るまで
「一人で泣かないでください…」
「……え…?」
意味がわからない。
自分は泣いてなどいない。
むしろ泣いているのは志保の方ではないか。
そんな心の声が伝わったのだろう。
だが志保は変わらず首を横に振る。
「表面的には泣いていないのかもしれません。でも心の中ではそうですよね? 表には自分の感情を出さないように押し殺して、いつだって自分の中で呑み込んでしまう。そうやって心の中で悲鳴を上げてる。違いますか?!」
「……っ」
息を呑んだ隼人の両手を志保の手が包み込む。
「私は隼人さんに自分の心の闇を聞いてもらえたことで救われました。あなたが何かに苦しんでいるのなら、ほんの少しでもそれに寄り添える自分でいたい。だからいくら帰れと言われても絶対に帰らない。我儘だと罵られても、今だけは絶対にあなたの傍を離れたりしない!!」
「 ______ 」
涙ながらに訴えるその姿を美しいと思った。
そう表現するのは不謹慎なのかもしれないが、心の底からそう思えた。
「し、ほ……しほ……しほっ…!!!」
気がつけば無意識のうちに体が動いていて。
この手を離したくないと、必死に小さな体にしがみついている自分がいた。
「隼人さんっ…」
あまりの強さに時折苦しそうにしながらも、細い腕がしかと大きな背中を掴んでいる。
互いに離さない、離れないと言っているかのように。
激しく雨が降り注ぐ中、2人は時間も忘れていつまでもそのまま互いを抱きしめ続けた。