いつかあなたに還るまで
「俺はいわゆる愛人の子なんだ」
「…え?」
お風呂を終えて一段落すると、志保の隣に腰を下ろした隼人が遠くを見つめながらゆっくりと語り始めた。
だが思いも寄らない最初の一言に、思わず言葉を失う。
「母親の名誉のために言わせてもらえば、本人は自分が不倫相手だなんて全く知らなかったんだ。料亭で働いてた時に仕事でやって来た男と知り合って、押しに押されてそのうち付き合うようになったって。でも少しずつ何かがおかしいと違和感を覚えるようになって、実は既婚者だったと気付いた時にはもうお腹の中には…」
「……」
その子こそが隼人だということに他ならない。
「何も知らなかったとはいえ、相手の家族や世間からすれば自分は不貞を働いた人間に変わりはないって。結局男には何も告げないまま逃げるように別れたらしい」
好きになった男性が実は既婚者だった。
何も知らずにその現実に直面した時の絶望たるやどれほどのものだったのだろう。しかもその時にはお腹に新しい命を宿していたなんて。
運命は時に過ぎるほどに残酷なものだ。
「でも相手も母には相当執着してたんだろうな。権力者である立場を最大限に利用して、最終的には見つけ出されて。…その時には既に俺は生まれた後だった」
「……」
淡々と。
だがその言葉の一つ一つはとてつもなく重い。