いつかあなたに還るまで
一度自分の感情を素直に認められたら、これまで何よりも重要だった彼女の肩書きが心底どうでもいいものへと変わった。
それどころか、彼女が生きていく上で少なからず重圧となるであろう立場から解放してやりたいとすら思う。
西園寺の家など一切脱ぎ捨てて、身一つで飛び込んで来てくれたらいいと。
そうすれば、自分の全てをかけて彼女を守り続けていってみせる。
……あぁ、母はこんな気持ちだったのか。
愛情というものは理屈じゃない。
本当に守りたいものができたとき、人は想像もできないほど強くなるのだ。
どんな自分でも受け入れると言ってくれた彼女に、自分も同じだけの想いを返していきたい。
どんな彼女でも、全て。
これまでの過ちも全て認めた上で、また前だけを見て進んで行こう。
彼女と一緒ならば、どんな未来でも幸せを感じることができるはずだから。
「志保…」
その存在を確かめるように細い体を抱き込むと、隼人はゆっくりと瞳を閉じた。
この日、夢の中に泣き濡れる母が出てくることはただの一度もなかった。
それは彼女を失ってから初めてのことだった。