いつかあなたに還るまで
あの嵐の夜、確かに彼と深く結ばれた。
けれど、結局身体を触れ合わせたのはあの一度きりだった。
もちろんあの日を境に二人の関係は大きく変わったし、直接の言葉はなくとも彼からの深い愛情を感じている。
その証拠に翌朝彼はこう言った。
「夕べは気持ちが溢れて抱いてしまったけど…次に志保と触れ合うのは会長にきちんと交際を認めてもらってからにする。会長のおかげで今の俺たちがあるんだし、ちゃんとけじめをつけて志保と向き合っていきたいから。…だからそれまでは我慢する」
すごく真剣な顔をしながら言った最後の言葉に、思わず吹きだしてしまった。
そんな志保につられるように彼も笑うと、「でも昨日のことは一切後悔してないよ」と耳元で囁いて、また赤面させたのだった。
もし前の彼が同じ事を言ったならば、それは本心から言っているのかと半信半疑になっていたに違いない。それどころか深い関係になること自体躊躇っていたかもしれない。
けれどそう思わせる彼はもうどこにもいない。
本当に、同じ未来を見つめてくれていると信じられたからこそ、志保もその言葉に笑顔で頷くことができた。
西園寺グループは世界にも進出している大財閥なだけに、祖父は一年の三分の一ほどを海外で過ごしている。次の帰国まではまだ少し待たなければならなかったし、そのうち彼自身も仕事で日本を離れることになった。
だから、子どもを授かったのだとしたらあの夜以外にはありえない。
あの日、彼は確かに避妊をしてくれていた。
けれどそれが絶対的なものではないことくらい経験のない自分にだってわかる。
もし本当にここにいるのだとしたら…
その奇跡のような確率に心が震えた。