いつかあなたに還るまで
「……あの、ずっと下腹部に鈍痛があるのは何か関係していますか? もしかして、赤ちゃんに何か…」
そう。もともと妊娠に気付くきっかけになった下腹部の痛み。月のものが始まる前にはお決まりとなっているそれだが、妊娠しているこの状況でも変わらず続いていることに不安を覚えていた。
全てが初めての志保にとって、妊娠初期の兆候がどんなものであるかがわからない。
「初期症状は人それぞれだから何とも言えないわね。あなたのように生理前のような鈍痛を訴える人もいれば、既に重いつわりの症状が出る人もいるし、何の変化もない人もいる。本当に、医学的にもはっきりは言い切れないほどに個人差が激しいものなの」
安心していいのか判断しかねる言葉に、ますます志保の不安は募る。
「胎嚢や鼓動についても同じことが言えるから、いずれにしても現段階でできることは何もないの。まずは二週間後にまた見てみましょう。ただ痛みを感じてるということだから、あまり無理はせずにリラックスして過ごしてね。もしも痛みが酷くなるとか出血するとか、何かおかしいことがあったらすぐに来てちょうだい」
「……はい」
ふわふわと、どこか夢見心地だった心が急激に現実に引き戻されていく。
宿った命が無事にこの世に生まれてくれる。
それが決して当たり前ではないのだということを思い知らされた気分だ。
そんなこと知っていたはずなのに、どこかで自分には関係のないことだと思っていた。
もし、もしもこの子に何かあったら_____
頭を過ぎりかけた恐ろしい思考を必死に振り払うと、志保は不安ごと振り払うように無理矢理笑顔を作って産婦人科を後にした。