いつかあなたに還るまで
「志保様、ちょっとよろしいですか?」
控えめにノックをしたのはその宮間だ。志保がその声に反応してゆっくりとベッドから体を起こすと、失礼しますと言いながら彼女が部屋に入ってきた。
「…どうかしたの?」
心なしか表情が冴えないような気がするのは考えすぎだろうか。
「実は、志保様にお会いしたいという方がいらっしゃっていて…」
「…私に?」
一体誰だろうか。来客など全く心当たりがない。
今の宮間を見れば隼人がサプライズ帰国したなんて期待はするだけ無駄なのは一目瞭然で、だったら尚更誰だという疑問で埋め尽くされていく。
「一体どちら様が?」
「……」
「…宮間?」
即答しないなんてやはりおかしい。
その時点でどうやら望まざる相手なのだろうことは想像がついた。
…もしかして、以前パーティで嫌な想いをさせられた染谷だろうか。
可能性は低いだろうが、プライドの高い彼ならやりかねない。
「…大川興産のご令嬢が志保様にお会いしたいと」
「大川興産…?」
大川興産は西園寺グループほどではないが、それなりに名の知れた会社だ。
だが聞けば聞くほど意味がわからない。これまで直接接点があったわけでもなければ、その令嬢だと言われる女性のことも一切知らない。
そんな人が一体何をしに?