いつかあなたに還るまで
「………宮間」
激しい後悔の念に押し潰されそうになったところで呼ばれた名前に、ハッと目の覚めるような思いで顔を上げる。見れば志保は変わらず窓の外に目線を送ったまま、こちらを振り返ろうとしない。
「……お祖父様にはもう話したの…?」
もしかして空耳だっただろうかと思った矢先、今にも折れそうなほどの弱々しい声が続いた。
「…いえ、まだお話していません。今は何よりも志保様のお体が大切ですから」
「……そう。だったらお願いがあるの」
「お願い…ですか?」
これまで気の抜けた人形のように何の反応も見せなかった志保の変化に、宮間は一言一句聞き逃してはなるものかと耳を傾ける。
「…お祖父様にはこのことは言わないでほしいの」
「 ! 」
その申し出を聞いた瞬間驚いたが、だがそれと同時に納得してしまった。
誰しも、自分が流産したなどと人に知られたくないものだ。
自ら傷に塩を塗るような行為も同然だから。
たとえ血の繋がった肉親であったとしても、進んで聞いて欲しいと思う人はそう多くないのが現実だろう。
ましてや志保はまだ学生の身。隼人との交際は歓迎しているだろうが、未婚の状態での妊娠、流産ともなれば彼の心証が悪くならないとは言い切れない。
志保はそのことも恐れているのだろう。
幸か不幸か昌臣も今日本にはいない。
隠し通すことは決して難しいことではなかった。