いつかあなたに還るまで

「………わかりました。会長には何も言いません。ですからご安心ください」

少しだけそれでいいのかと迷ったが、実際昌臣に話したところで志保が傷つく以外に何の意味も見出せなかった。誰しも人に知られたくない傷の一つや二つある。今回のことは志保にとって、引いては多くの女性にとってその最たるものであると思えた。
口外することがあるならば、それは彼女の意志に基づいたものでなければならない。

宮間が静かにそう告げると、やはり志保はこちらに背を向けたまま、弱々しくありがとうと答えた。その今にも折れてしまいそうな後ろ姿が痛々しくて堪らない。

どうして今ここにあの人がいないのか。
考えても仕方がないことをつい考えてしまう。
辛い現実は変わらないのだとしても、せめてあの人がいれば内に秘めた感情を爆発させることができるのに。
思う存分泣いて、泣いて、泣いて。
一人では到底抱えきれない悲しみを受け止めてもらうことはできるのに。

「……もう一つお願いがあるの」
「…え?」

思わぬ申し出に、宮間は今度は何だろうかと考えを巡らせる。
だが今の志保が望むことならば、自分にできることは何でもしてみせる。
その意志に寸分の揺らぎもなかった。




「………彼にも……隼人さんにも…何も言わないでほしいの…」




「……え…?」


だが志保の口にしたまさかの言葉に、宮間は絶句した。
今、なんと?

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