いつかあなたに還るまで
誰もいなくなった病室はしんと静寂が支配していた。
宮間の前では一旦目を閉じて見せた志保だが、再びその黒い瞳はぼんやりと空虚な空を見つめていた。
ふと、目線を下げた先であるものを捉える。
いつからあったのか、枕元にそっと置かれていたそれは____
「______ 」
大きく見開いた瞳がはっきりとそれを認識すると、やがてそこからぼろぼろと堰を切ったように涙が零れ落ちた。
これまで一度だって出てはこなかったはずの涙が、今度は止まらない。
「……っ、ごめ、なさっ……ごめんなさっ…ごめんなさい、ごめんなさいっ…!!」
ぶるぶると震える手でそれを掴むと、志保は額を押しつけてうわごとのように謝罪の言葉を繰り返した。
守れなくてごめんなさい。
嘘をついてごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
「ひっ…うぅ゛ーーーーーーーーーーーーーーっ……!」
広い室内に慟哭が響き渡る。
既に皺だらけの紺色のハンカチを破れんばかりに握りしめながら蹲る志保の姿は、行き場を失って途方に暮れている子どものように儚げで、悲しかった。