いつかあなたに還るまで



志保に会えないと自覚した途端重くなった足取りに苦笑しながらマンションへと戻ってくると、エントランスに立つ人影に気付いた。薄暗くてよく見えないが、それが誰であるかを認識した瞬間隼人の足がピタリと止まる。


「お帰りなさい。待ってたのよ」

既視感のある光景にしばし動きを止めてしまったが、直後スーッとさっきまでの熱が引いていくのがわかる。隼人はその人物___里香子に目をやることもなく横を通り過ぎた。

「待って! 今日は隼人にどうしても聞いてもらわなきゃいけないことがあるの!」
「あいにくだが俺にはない。金輪際会うつもりもないと話したはずだ」

にべもなくそう吐き捨てる隼人だが、里香子だって負けてはいない。紙袋をぶら下げた手に両手で巻き付くと、行くのは許さないとばかりにその進行を妨害し続ける。

「っ、いい加減に____!」

怒りのあまり理性が振り切れそうな勢いで睨み付けた視線の先にさっと何かが差し出される。白黒でモザイクがかかったようなそれに、一体何のつもりだと眉間に深い皺が寄った。

「一体何を____」




「あなたの子どもがいるの」




だが里香子の口から告げられた衝撃の一言に、隼人の思考回路はそこでストップした。
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