いつかあなたに還るまで

里香子に対して愛情というものが存在したことはただの一度もない。
ただ自分にとって都合のいい存在だった、それだけ。
だがそれは里香子にとっても同じこと。隣に並べても恥ずかしくない男が自分だった。つまりは互いの利害が一致し、互いに利用し合っていた。納得の上での関係だった。
その上彼女の嫌な面をこれでもかと見せつけられてきたのだから、今さら彼女に対して愛だのなんだのが芽生えるなんてことは一生かけてもありえない。

だが____



『父親に見捨てられた子どもがどんな思いで生きていくのかを誰よりも知ってるでしょう?』



急所をひと思いに突くような言葉が胸を抉って呼吸もままならない。
何故彼女がそのことを。
そんなことを考えたところで何の慰めにもなりやしない。

彼女を愛する?
そんなことは天地がひっくり返ってもありえない。

だが子どもは?
子どもには何の罪もない。

そして皮肉にも彼女の言ったことは間違ってはいない。
頼る相手もいない母親がたった一人で子どもを育てあげていくことがどれだけ大変なことであるか、それをまざまざと見せつけられてきたのは他でもないこの自分自身だ。
万が一里香子が親から離縁でもされたら、その子どもは一体どうなる?

中途半端にかかわるなど言語道断。
じゃあ父親として、家族として一生守り抜く覚悟がお前にあるのか____?

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